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2021
05.23

幸せの国フィンランドからの音楽便りVol.2「仕事と子育て」

こんにちは! フィンランド在住のユーフォニアム奏者、児島瑞穂です。

先月のブログでは連載開始という事で、簡単にフィンランドについて紹介させていただき、マウントフジミュージック代表の藤井君とリモートで共演した演奏を聴いていただきましたが、いかがでしたか?

少しでもこの国に興味をもってもらえていたら嬉しいです!

さて、そんな北欧フィンランドは新緑が気持ち良い季節になってきました。

雪解けと共に、暗く長かった冬が去り、草が生え、花が咲き、、。この時期のフィンランドは、緑が青空に映えて、鳥の歌声があちらこちらで聞こえ、何とも美しい季節です。

そしてもうすぐ、日本より一足早く、夏休みに入ります。もしかしたら日本とは少し違う夏休みの過ごし方かもしれません…

フィンランド流「働き方」って?

フィンランド人は『効率良く仕事して、しっかり休む!』がモットー。少なくとも、私の目にはそう映ります(笑)。

朝はわりと早くから出勤、テキパキと仕事をこなし、午後4時にはラッシュアワー。日曜・休日勤務は、基本的に給料が2倍になるので、会社側は働かせたくなく、また「上司が残っているから、帰れない」という事はありません。

なぜでしょう?

その理由は、「フィンランド語の会話ではあまり敬語を使わない、日本のような上下関係がないから」ではないでしょうか。

私が留学でこちらに来て、フィンランド語がやっと少し話せるようになった頃、だいぶ年上の先生に対し「あなた」の丁寧形『Te(テ)』を使って話したら、「やめてくれ〜。フィンランドでは敬語を使わないで良いんだよ!」と即答されたのが、今でも印象に残っています。

音楽の現場でも年齢はあまり関係なく、仲間としてお互いを尊重し、仕事をしています。先日お邪魔した某プロオケでも、トランペット奏者の一人が、10歳くらい年上のトロンボーンの人を、冗談でいじっていました(笑)。

その日は、きついプログラムだったのですが、その後、周りの雰囲気がだいぶ和んだ気がします。

ユニークな?「休み方」

そして休暇。サラリーマンも4週間くらいの夏休みを取り、思い思いの場所で楽しみます。以前、私の従兄弟が夏に遊びに来た時、「そんなに長い夏休みをみんなが取って、社会は機能するの!?」と不思議がっていましたが、、、どうでしょう?

一時的な人員削減で、「客」としてはちょっと不便な事もあります。担当の人が違ったり、ふだんより待たされたり、公の医療機関だと、地元よりちょっと遠くに行かないといけなかったり。でも、それはすでにわかっている事なので、みんな納得しているんでしょうね。

音楽家にいたっては、たいてい6月中旬から8月中旬まで夏休みですが、小さな街をあげての音楽祭がたくさん開催されたり、音楽講習会での指導、研修、また、ふだん出来ない創作活動に励んだりもします

私も夏休みには『リエクサ・ブラス・ウイーク』を代表とする音楽祭やイベント演奏の準備期間になり、いつも以上にユーフォニアムの練習に打ち込みます。

夏の音楽祭

コロナ禍で今年も開催が厳しそうですが、音楽祭の中でも代表的なものだけご紹介しますね。

『リエクサ・ブラス・ウイーク』

金管楽器奏者にとっての一大イベントで、私にフィンランド留学のきっかけをくれた音楽祭でもあります。毎年、国内外から著名な金管のソリスト、アンサンブルを招聘し、演奏会、マスタークラス、個人レッスン、コンクールを開催しています。

『ポリ・ジャズ』

例年だと海外アーティストも多く出演するジャズフェスティバル。今年は国内アーティスト中心に開催のようです(ポリは地名です)。

『クフモ室内音楽祭』

フィンランド在住のバイオリニスト新井淑子さんと、チェリストであり、2007年~2010年は駐日フィンランド大使館文化参事官にを務められていた、セッポ・キマネンさんご夫妻が立ち上げた音楽祭。今年で第51回目、国際的にも知名度のあるクラシックの音楽祭です。この音楽祭で結成された室内オーケストラ「ヴィルトゥオーゾ・ディ・クフモ」は、CDも出しています。

『サヴォンリンナ・オペラフェスティバル』

オペラ愛好家に世界的にも有名な、サヴォンリンナ城でのオペラフェスティバル。オーケストラメンバーは大体フィンランド在住の音楽家ですが、ソリストは世界中から呼ばれます。演奏者は練習期間も含めると、かなりの長期滞在になります。

その他、フィンランド中のフェスティバルが、こちらで日本語でも紹介されています。

イクメン、ワンオペという言葉が日本でも定着しているようですが、こちらでもお父さんは積極的!

平日の昼間にベビーカーを押しているお父さん、親子クラブに参加しているお父さんをよく見かけます。さすがに家事は、女性のほうがたくさんしている気がしますね。もしくは、私の周りの女性がそう自負しているのかもしれませんが(笑)。お料理が得意で、ケーキを焼くのが得意な男性、掃除好きの男性も結構います。基本的に共働きのフィンランド。共働きが成り立つためには、家事や育児の分担も必要ですよね。

まだ自分が学生だった頃、コレペティ(室内楽や伴奏を担当し、指導もするピアニスト)と次に合わせる日を決める際に、「あ、その日は僕が子守の番だからだめ!」と言われ、びっくりした記憶がありますが、今となっては我が家も、夫の協力なしには音楽の仕事との両立が出来ません。むしろ、私の帰宅時間のほうが遅い事が多いので、保育園のお迎えは、ほぼ夫の担当です(笑)。

日本もフィンランドも、高齢出産、少子化傾向がありますが、フィンランドは「子育てがしやすい国」と言われています。統計で「幸せな国」に選ばれた理由の一つは、子育てなどに関する公的機関の補助が充実しているという点もあるようです

以下、私の立場や職業柄、とてもありがたかった事のいくつかです。

産休手当

基本的に、前年度の収入に応じた手当がもらえます。私のようなフリーランスでも手当がもらえるのです! 「ケラ」と呼ばれる、国民年金や失業保険を管理するお役所から給付され、

・産休手当は産前産後の約4ヶ月分

・その後の育休手当は約6ヶ月分

合計でほぼ10ヶ月分の手当が出ます。

私が仕事に完全復帰したのは、産後10ヶ月の頃でした。

両親の育休

育休は、お父さんと分けて取ります。

産後10ヶ月以降は手当てがかなり減りますが、父母両方の育休を合わせて、1歳半〜2歳くらいまで自宅で子育てをする家庭が多いような気がします。その間、正社員は仕事をキープできます。

保育園

幼稚園という分類がなく、公立か私立の保育園です。

ヘルシンキ市内はもちろん、地方都市にも「24時間保育」があり、我が家も第一子はお世話になりました。共働き、祖父母が遠くに住んでいる、夜遅い、土日休日出勤がある状態でしたので、この「24時間保育」なしには、仕事が続けられなかったと思います

ちなみに、普通保育では、朝は6時半頃から開いているところが多く、8時から朝食が提供されます! 保育料は有料です。預かってもらえるのは、もちろんありがたいものの、子供が二人とも通っていた時期は、結構痛い出費でした、、。

子ども連れの公共交通機関

ヘルシンキ市内では、ベビーカーでの子ども連れの大人一人分が無料です(ちなみにお隣の国エストニアの首都タリンでは、なんと市民全員無料です!)。

こちらでは、まずベビーカーや車椅子での移動も便利に作られている所が多いので、大変な場所自体少ないのですが、段差などが大変な時は、周囲の人がパッと手伝ってくれます。

私などは楽器が大きいので、「楽器を背中に、ベビーカーと幼児」という、かなりの大荷物での移動が多々ありましたが、割と問題なく生活出来ていたと思います、、、とは言え、子どもが二人とも小さかった頃は、結構、毎日が必死でした(涙)。

仕事と子育てで忙しい時期を、フィンランド語では『Ruuhkavuosi(ルーフカヴオシ)』と言います。「大混雑の年」みたいな意味なんですが、最近下の子もだいぶ手がかからなくなり、ユーフォリア・ブラス・セクステットのメンバーとも、つい先日「ruuhkavuosiを超えてきたねー」と話していました(皆、子持ちです)。

私自身が、二足ならず三足の草鞋を履いていた、『“音楽家”兼“講師”兼“客室乗務員”』をしていた頃。仕事と家族のスケジュールを組むのは、毎週、毎月パズルのように大変でした。親戚だけでなく、友人、知人、近所の人にどれだけ助けられた事か、、。

我が家は、国や街のシステムだけでなく、見返りを求めずに助けてくれる人がいるから、何とか、子育てと仕事の両立が成り立っています。

今、小さなお子様がいて大変な方、数年後にはきっと大分落ち着きます。周りにも助けを求めつつ、頑張ってくださいね!

さて、最後に今回の音楽。ジャン・シベリウス(1865−1957)作曲のピアノ曲「6つの即興曲」Op.5より第6番を、ユーフォリア・ブラス・セクステットの演奏にてお届けします。

Op.5というのは作品番号ですが、5番、つまり職業作曲家になったシベリウスのかなり初期の作品で、1890-1893年に書かれました。シベリウスはフィンランドで最も偉大な作曲家であり、フィンランド人なら誰もがシベリウス作曲の「フィンランディア」を知っているはずです。ロマン派、国民派の作曲家で、自然をこよなく愛した彼の音楽にはフィンランドの風景が反映されているものが多くあります。

私はこの「6つの即興曲」の第6番を聴くと、「初夏の白樺の風景」が目に浮かんできます。その、私が思い浮かべる情景にピッタリな白樺の小径が、自宅から自転車で行けるところにありました! 自然が豊かなこの国では、首都ヘルシンキ市内でも、こういう場所がたくさんあります。このブログを読んでくださっている皆様にも、そこを歩いているような気分で、お楽しみいたければ幸いです。


☆この連載を読んでくださっている方へのプレゼント。私たちのCD ユーフォリア・ブラス・セクステット「Kun」(定価2,500円) と、私の高校時代からの友人で、マウントフジミュージックの代表、藤井君のリーダーアルバム「Lullaby of Angels」(定価2,500円)を2枚組3,500円(税込3,850円/送料無料)で販売いたします。ぜひこの機会にお求めください!

フィンランドの金管アンサンブル、ユーフォリア・ブラス・セクステットのファーストアルバム、「Kun 〜時(とき)」。ヘルシンキ市立劇場の女優、歌手であるエミリア・ニューマンをソリストに迎え、1950〜1960年代にフィンランドで流行った歌を中心に収録。斬新な編曲で好評を博す。

ヴィサ・ハーララ(トランペット・キュミ・シンフォニエッタ首席)
元フィンランド放送交響楽団トランペット副首席。ブラジル音楽を心の拠り所にしている、マルチインストゥルメンタリスト。

ミーッカ・サーリネン(トランペット・フィンランド放送交響楽団副首席)
元々、スタジオミュージシャンとして、ポップス系や、ロックバンドでも働いていたが、放送響入団後はバロックに目覚め、現在はフィンランドバロックオーケストラ団員、シベリウス音楽院講師を兼任。

ユッシ・ヤルヴェンパー(ホルン・ユヴァスキュラ・シンフォニア首席)
元フィンランド国立オペラ劇場オーケストラ、副首席契約団員。自身の出身地である地方都市にて、音楽祭を定期的に主催している。

アンナ マイヤ・ライホ イヘクウェアズ(トロンボーン・トゥルクフィルハーモニー副首席)

元フィンランド護衛隊音楽隊副首席。トゥルク・ジャズオーケストラの設立メンバーでもあり、ジャンルを超えたクロスオーバーを得意とするトロンボーン奏者。

児島瑞穂(ユーフォニアム・北ヘルシンキ音楽学校)
東京都調布市出身。国立音楽大学、フィンランド国立シベリウス音楽院卒業。フリーランス音楽家。トロンボーン奏者としても、オーケストラの契約団員やエキストラとして活動。

アレクシ・サラスカリ(テューバ・北部キュミ音楽学校)
キュミ・ブラスイベント芸術監督。吹奏楽指導者、指揮者としての評価も高く、フィンランドの吹奏楽指揮者オブザイヤーを2020年に受賞。

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