こちら北欧では、一足先に夏休みが終わり、秋の香りがしてきましたが、皆様お元気でお過ごしでしょうか?
今回は、夏の風物詩でもある音楽祭や講習会についてです。去年に引き続き、今年もコロナ禍により、数多くの音楽会がキャンセルになりましたが、来年にはまた開催されると信じて、ふだんの様子をご紹介したいと思います。
リエクサ・ブラス・ウイーク
リエクサ・ブラス・ウイークは、今年もキャンセルになってしまった音楽祭の一つですが、私にフィンランド留学のきっかけを与えてくれた音楽祭です。リエクサ市はヘルシンキから北に約500km、ロシアとの国境の近くにある田舎町で、J.シベリウス作曲の「カレリア組曲」で有名な北カレリア地方に位置します。シベリウスが多大なインスピレーションを受けたと言われる、コリ国立森林公園もリエクサ郊外にあり、自然豊かな場所です。
親日家でもある音楽監督、ヨウコ・ハルヤンネ氏の元、ふだんは静かな田舎町リエクサに、国内外から金管楽器奏者が招待され、毎日コンサートで賑わいます。コロナ禍前には、NHK交響楽団のメンバーによる金管五重奏「N-Crafts」や、指揮者新田ユリ氏の率いる、愛知室内オーケストラも招待をされ、コンサートは大好評を得ていました。
(ちなみに、ヨウコ・ハルヤンネ氏は、ソロアルバムを何枚も出している世界的なトランペットのソリストですが、フィンランド放送交響楽団元ソロ首席で、現在、洗足音楽学園大学の客員教授も務めています。冗談のお好きな「陽子・春やんね」さんです)
こういった音楽祭は、地元住民にとっても夏の一大イベントです。ふだんは聴けないコンサートが生で聴け、観光収入が一気に増える期間です。近隣の街の人にとっても、非日常的な一時が味わえる、大事な期間です。
また、コンサートを聴きたいという観光客のほかにも、マスタークラスやコンクールを受けたいという人達が、世界各地から集まります。
プロの演奏者にとっては、ふだんは会えない同業者同士の交流をしたり、他人の演奏を聴いて刺激を受けたり、新鋭若手奏者に出会うことが出来る貴重な機会です。私も2005年以来、演奏者や指導者としても、何度か関わらせてもらっています。ソロ、室内楽、指導と1週間忙しくはなりますが、いつも楽しみにしています。
これらは、ほかの音楽祭とも共通している部分が多いと思いますが、何せリエクサは小さな小さな田舎町(笑)。演奏者、参加者、観光客の全てにホテルの客室は足りないので、ゲストアーティストはなんと、市民の家に宿泊することがほとんどです(オーナーは、その間、別荘に行っていたりで不在です)。
日本の浜松国際管楽器アカデミー&フェスティバルや、PMF(パシフィック・ミュージック・フェスティバル札幌)でも、素晴らしいコンサートやマスタークラスがありますが、リエクサでは音楽を志す若者でなくとも、レッスンやワークショップ、アンサンブルに参加出来ることが特徴の一つであるかもしれません。また、市内のレストランやバーの数もかなり限られているので、国籍や、プロ、アマにとらわれず、街中で交流出来る期間でもあります。
フィンランドの夏の音楽祭については、この連載のVol.2「仕事と子育て」の中でもいくつかご紹介しましたので、こちらもぜひご参照ください。
ミュージックキャンプ
音楽祭併設の講習会に加え、フィンランドではLeiri(レイリ)と呼ばれる、合宿のようなミュージックキャンプも盛んです。ミュージックキャンプの多くは、初心者から上級者まで、子どもから大人までを対象とし、寮などに泊まりがけで、1週間ほど和気あいあいと過ごします。去年はミュージックキャンプも、コロナ禍のためにほとんどがキャンセルになりましたが、今年は開催出来たところのほうが多かったように思います。
弦楽器合宿だったり、シンフォニーオーケストラ、吹奏楽合宿だったりと、ミュージックキャンプの種類はいろいろですが、フィンランド全国から集まった人達が、毎日一緒に演奏する事によって、横のつながりが出来、キャンプ後に音楽を続けていく原動力にもなってなっているようです。私がシベリウス音楽院学生時代にも、「僕とあの子は、子供の頃、ミュージックキャンプで出会ったんだよ!」という話をよく耳にしました。
フィンランドは人口が550万人の小さな国です。こういった音楽祭やミュージックキャンプで、音楽をやっている者同士の交流が生まれ、つながりが出来ているようです。この狭い世界では、皆が「知り合い」か、「知り合いの知り合い」です。悪い事は出来ませんね(笑)。
今年、ミュージックキャンプに参加した大人の生徒からは、
「コロナで一年以上まともに合奏が出来なかったから、たくさん合奏出来て本当に良かった!1週間、楽器に集中出来て幸せだった」
という話を聞きました。コロナが収束し、また自由に海外に出れるようになったら、フィンランドでこういったミュージックキャンプに参加して、音楽交流をしてみるのも面白いかもしれませんね。
北欧では夜が暗くなり、星が見える季節になって来ました。今回の動画は、日本語で「宵の明星」を意味する「Iltatähti(イルタタハティ)」。フィンランド語では年の離れた末っ子という意味もあります。この曲はシベリウスの生徒であり、ほぼ同時期に活躍したフィンランド人作曲家、レーヴィ・マデトヤの作品です。筆者がシベリウス音楽院学生時代に、編曲のクラスでピアノ曲から金管六重奏にアレンジしました。今ではユーフォリア・ブラス・セクステットの定番レパートリーです!
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フィンランドの金管アンサンブル、ユーフォリア・ブラス・セクステットのファーストアルバム、「Kun 〜時(とき)」。ヘルシンキ市立劇場の女優、歌手であるエミリア・ニューマンをソリストに迎え、1950〜1960年代にフィンランドで流行った歌を中心に収録。斬新な編曲で好評を博す。
ヴィサ・ハーララ(トランペット・キュミ・シンフォニエッタ首席)
元フィンランド放送交響楽団トランペット副首席。ブラジル音楽を心の拠り所にしている、マルチインストゥルメンタリスト。
ミーッカ・サーリネン(トランペット・フィンランド放送交響楽団副首席)
元々、スタジオミュージシャンとして、ポップス系や、ロックバンドでも働いていたが、放送響入団後はバロックに目覚め、現在はフィンランドバロックオーケストラ団員、シベリウス音楽院講師を兼任。
ユッシ・ヤルヴェンパー(ホルン・ユヴァスキュラ・シンフォニア首席)
元フィンランド国立オペラ劇場オーケストラ、副首席契約団員。自身の出身地である地方都市にて、音楽祭を定期的に主催している。
アンナ マイヤ・ライホ イヘクウェアズ(トロンボーン・トゥルクフィルハーモニー副首席)
元フィンランド護衛隊音楽隊副首席。トゥルク・ジャズオーケストラの設立メンバーでもあり、ジャンルを超えたクロスオーバーを得意とするトロンボーン奏者。
児島瑞穂(ユーフォニアム・北ヘルシンキ音楽学校)
東京都調布市出身。国立音楽大学、フィンランド国立シベリウス音楽院卒業。フリーランス音楽家。トロンボーン奏者としても、オーケストラの契約団員やエキストラとして活動。
アレクシ・サラスカリ(テューバ・北部キュミ音楽学校)
キュミ・ブラスイベント芸術監督。吹奏楽指導者、指揮者としての評価も高く、フィンランドの吹奏楽指揮者オブザイヤーを2020年に受賞。
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