ブログ

2024
01.13

音楽家(ミュージシャン)のための請求書の書き方「インボイス制度対応」

この記事は、ただ単に「請求書の書き方のHow To」ではなく、「なぜ職業音楽家は請求書を書けるようになっておいたほうが良いか」という視点でまとめてありますが、シンプルに書き方だけを知りたい方は「請求書の書き方(実践編)」のところだけお読みください。

昨年(2023年)11月23日に、ヴァイオリニストの今野均さんが、X(旧Twitter)で下記の投稿をされていました。

※今野均さん(ヴァイオリン)は、東京音大卒のスタジオミュージシャン、アレンジャー、プロデューサーで、「FNS歌謡祭」、「題名のない音楽会」のようなTV番組などでよく見かける方。アーティストさんのツアーサポートやCMレコーディングなどでも引っ張りだこで、きちんと「職業音楽家として(ビジネスとして)生計を立てられている方」です(「別録り」でしたが、僕もスタジオでご一緒し、同じCDに参加させていただいた事があります)。

音大で教わらない「請求書の書き方」

めちゃめちゃリアリティのあるツイートですね…

僕は今、株式会社マウントフジミュージックという会社を経営していて、いわゆる音楽事務所的な事業も行っています。

その現場で感じるのは、(若い世代に限らず)「請求書の書き方を知らない音楽家がとても多い」という事。

もっと言えば、「請求書を出さないとギャラが振り込まれない(※可能性がある)事すら知らない音楽家も多い」です。

以前「若い音楽家に職業訓練を行う・自立のサポートを行う」といった活動をしていた「NPO法人ネクストステージ・プランニング」では、音大を卒業し、すでに学生ではないにもかかわらず、『本番当日、演奏だけ行い、後日請求書を出さず、ギャラ(報酬)が入金されない事にも気づかない』レベルの子もいました。

我々は職業訓練が活動趣旨だったので、こちらから連絡をし(提出するよう促し)、書き方を教えるといった事までしていましたが、普通の音楽事務所だったら絶対にやってもらえないですよね。

※確かに、仕事によっては請求書を出さないで良い現場も結構あるので(僕の経験では千葉県の某有名テーマパーク、大手音楽教室、某アイドル関係のツアーサポート etc.)、100%必須ではないとは思いますが、“アーティスト”(芸術家)としてだけでなく「ビジネスとして」音楽という仕事に携わりたい方は、今野さんがおっしゃるように、絶対書けるようになっておいたほうが良いと思います。

インボイス制度「音楽家への影響」

2023年10月に、「インボイス制度」が導入されましたね。

約1年前に執筆した『音楽家のアナタ!インボイス制度の準備は大丈夫!?』という記事はかなり反響があったようで、「音楽家 インボイス制度」といったワードでググるとかなり上位に表示されています(この記事の執筆の段階では1位に表示されています)。

学生さんはともかく、すでにフリーランスのミュージシャンとして活動されていて、未だ「インボイス制度って何?」と言っている方は相当にヤバいので(汗)、まずは上記の記事を読んでみてください!

現時点で「インボイス発行事業者」(適格請求書発行事業者)になったほうが良いかは人によって(どんな仕事をしているかによって)違うので、今回の記事では触れませんが、

・「インボイス制度」という法整備がされた事

・それによって「請求書への消費税額の明記が必須になった事」(自分が「インボイス発行事業者」でなくても、先方の事務所や会社が「インボイス発行事業者」の場合、適切な処理が出来なくなってしまう場合があります)

は事実なので、その観点から書き方の解説をしようと思います。

また、「現場の職業音楽家」、「音楽事務所の代表」という双方の顔をもつ僕の特性を活かして、会計ソフトの制作会社などが提供している記事よりも「音楽家に役立つ視点」で解説しようと思います。

外税・内税の理解は不可欠!

「外税・内税」という言葉は聞いた事があるでしょうか?

ざっくり説明すると、

外税は「税抜価格」、内税は「税込価格」です。

例:「ギャラが1万円の場合」

外税(税抜)→11,000円(小計10,000円+消費税10%の1,000円)

内税(税込)→10,000円(小計9,091円+消費税10%の909円)

のようになります。

まずは、「インボイス制度の導入によって、この違いを正確に記入する事が義務付けられた」と思ってください。

これまでは年収1,000万円以下の場合は「免税事業者」だったため、消費税の10%分は納税しなくて良かったのですが、今後、インボイス発行事業者は納税しなくてはいけません。

つまり、ギャラが外税の場合は手元に残るのが10,000円、内税の場合は9,091円のようになるので、年収レベルで考えると結構な差が付いてくる事がご理解いただけるのではないでしょうか(年収が500万円の方は「x 500」で計算してみてください)。

皆さんが仕事を請ける際、ギャラの提示がありますよね。

「◯月◯日のイベントのギャラは◯万円でお願いします(よろしいでしょうか?)」というようなやり取りの際、僕は本来、事務所側には「外税か内税か」「交通費は自腹なのか、別途支給なのか」などを事前に伝える義務があると思うんですけど、これまでの経験上、伝えてこない事務所が一定数あります(もっと言うと、ギャラの事前提示がない事務所や先輩ミュージシャンもいますが、そういうのは結構危ないと思ったほうが良いです)。

インボイス制度の導入後は、リアルに年収や生活に関係してくるので、先方が外税か内税かなどを提示してこない場合は、必ず仕事を請ける前に聞くようにしましょう

少し強気に攻めるのであれば、「外税でよろしいですよね?」と聞き返しても良いかもしれません(ただし、アナタのスキルや先方との信頼関係によるので気を付けてください)。

僕が伝えたい大切なポイントは、「このやり取りが出来るかどうかで、お金(交渉)に強い音楽家か弱い音楽家かがわかってしまう」という事。

強い音楽家は職業音楽家としてキャリアアップしていける可能性が高いと言えますし、弱い音楽家はその逆で、「事務所にナメられやすい」「安請け合いしやすい」可能性が高いと言えますね。

注:「外税」がOK、「内税」がNGという話ではなく、あくまで消費税10%を抜いた分の報酬が適正かどうかの話なので、誤解のないようにお願いします。

請求書の書き方(実践編)

サンプルとして

・外税の場合

・内税の場合+交通費を別途請求する場合

を用意してみました。

注:実際には「外税+交通費の請求」というパターンもありますよ。

外税の場合】

【内税の場合+交通費を別途請求する場合】

 

1. →「請求先の宛名」を記入します。

一般的に、先方が法人(会社・事務所)や団体の場合は、その名称を記入し、「御中」を付けます。

個人の場合は個人名、法人などの場合でも、経理の担当者などを指定されている場合は「株式会社マウントフジミュージック 藤井様」のようになります(この場合は「御中」ではなく「様」になります)。

2. →「請求書の発行日」を記入します。

仕事を実施した日(本番の日)の当日か、それ以降の日付になっていれば問題ないです。

同じ取引先から何本も仕事がある場合は「月末締めで月ごとに請求する」とか、「ツアーの日程が全て終了してから一括で請求」するのが一般的。

単発の仕事の場合は、「本番当日もしくは翌日辺りに、事務所へのお礼のメールと合わせて請求書も添付」して良いと思います(郵送を希望する事務所もありますが、後述の「電子帳簿法の改正」により、メールやLINE、messengerなどのチャットへのPDF添付が主流になると思います)。

注:前述のように、請求書の提出がなければ事務所側はギャラを支払う必要がないので、事務所によっては「ラッキー」と思っているかもしれないですが、僕の場合は「◯◯さん、請求書が出ていないな、ちゃんと支払いたいのに、早く提出してくれないかな」と心配材料が増えてしまうので(笑)、「自分から早く提出してほしい」というのが正直なところです。

「(本番演奏だけでなく)請求書を提出し、入金を確認するまでが一連の仕事、さらに言えば、3月に確定申告をし納税をするまでが仕事、それが出来て一人前」なので、出来ている音楽家と出来ていない音楽家で、その方への(プロ意識やスキルの)印象が変わってきます(次の仕事を依頼するかどうかやギャラの金額に関わってきます)。

3. →「インボイス発行事業者の登録番号」を記入します。

『T』から始まる番号です(登録していない方は記載しなくても大丈夫です)。

4. →「アナタの連絡先」を記入します。

サンプルでは「社名と住所」になっていますが、個人事業主の場合は「アナタの名前」「住所」、必要に応じて「楽器名」「電話番号」や「E-mailアドレス」を記入すると良いでしょう。

5. →「何の仕事をしたか」を記入します。

先方(事務所など)から指定があればその通りに、特になければ、「何月何日に何の仕事をしたか」のように、マネージャーさんや経理の方が特定出来れば問題ないかと思います。

例:◯◯◯◯(←アーティスト名、イベント名)コンサートツアー演奏料@◯◯◯◯(←場所)

例:◯◯様結婚披露宴演奏(弦楽四重奏)◯◯◯◯(←場所)

6. 7. 8. 9. →「小計・消費税額・源泉所得税額・請求金額」を記入します。

前述の通り、インボイス制度では、消費税額の記入(小計と消費税額を分けて記入する事)が必須となりました。

フリーランスにとってもう一つ、必ず把握、理解しておく必要があるのは「源泉所得税」です(確定申告、その還付金に関係してくる税金です)

事務所、経理側の立場からすると、この4つの金額が正確に記入されていれば、請求金額を見て入金するだけなので、非常に助かります。

逆に言うと、源泉所得税や請求金額が計算されていないと、事務所側の経理の手間が増えるわけで、うちのような小さな会社で専属の経理を雇っていない場合は、「確認の手間が増える」「金額が間違っていて指摘の必要がある」など、事務所側の仕事が増えてしまいます。

「2.」でも指摘したように、この項目がきちんと記入出来ているかもアナタの印象を決める大きなポイントだと思うので、ぬかりがないようにしたいところですね。

10. →「入金先・振込先」を記入します。

たまに記入を忘れている方がいますが、当たり前ですけど、入金出来なくて事務所は困ります。

大きな事務所だと、一度記入しておけば記録が残り、変更がなければ同じ振込先に入金してもらえますが、毎回記入しておくに越した事はないと思います。

11. →「交通費」の請求をします。

ここで大切なのは、「交通費は非課税(税込)」だという事。

今回の説明では、「外税の場合」「内税の場合+交通費を別途請求する場合」に分けましたが、実際には「ギャラは外税、交通費は内税」になる場合があります(同じ請求書内で「外税」「内税」を区別して記入、請求する必要があります)。

間違って「交通費も外税にしてしまっている方」が一定数いますので、気を付けてください!(前述のように「お金(税制)に弱い音楽家」だと思われて損をします)

その他→「先方に伝えておく必要がある事」などを記入します。

「備考欄」を使用します。

たとえば、このサンプルの摘要(件名、商品名)欄に収まらない内容(内訳)を記入します。

具体的には「何時間拘束で◯◯円の基本料金に対して、拘束時間、演奏時間の延長で◯◯円割増になっています」とか、「恐れ入りますが、銀行の振込手数料は御社側でご負担をお願いいたします」、「このたびは大変お世話になりました。またぜひよろしくお願いいたします」といった内容です。

「結婚して旧姓のまま活動をされている方で、銀行口座の名義が違う場合」なども、その旨の記載があると親切かもしれません。

電子帳簿保存法の改正

今月(2024年1月)から電子帳簿保存の義務化が始まっています。

この法律改正は、デジタル時代における会計処理の効率化を目的としていて、全ての事業者が、紙の請求書や領収書もデジタル化(スキャン)して保存する事が義務化されました。

インボイス制度同様、人によっては厄介な法改正だと感じるかもしれませんが、書類がデータ化されている事は悪い事ではありません。むしろ楽になります。

最近では楽譜もPDF化し、iPadで演奏をする方も増えましたよね。それと同じようなものだと考えてください。

無料の請求書作成サービスを活用しましょう!スマホにも対応!

この法改正のタイミングで僕が導入をオススメするのは、「オンラインの請求書作成サービスを利用する事」です。

うちの会社にも、未だに手書きの請求書を写メのようなスキャンで提出してくる方、WordなのかExcelなのか、パソコンで作成はしているけど、必要事項が抜けている方や、消費税や源泉所得税などの計算間違いをして提出してくる方がとても多いです。

間違いがあると、その指摘をしたり再提出してもらう作業で事務所側は時間と労力を奪われので、間違いのない方と比べて、同じ報酬(ギャラ)を支払っているにも関わらず、マネージメントに要する手間が増えますよね。

「お金に弱い音楽家」「マネージメントが面倒な奏者」という印象をもたれると、知らないうちに仕事を失っているかもしれません。

逆に、フリーランスで仕事が増えていく音楽家、請ける仕事の価値、価格を上げていける音楽家は、こういった小さな事の積み重ねで損をしていない方が圧倒的に多いと感じます。

ちなみに僕の周りでは「misoca」という請求書の無料作成サービスを利用している方が多いですね(インボイス制度にも対応済み・スマホでも作成可能のようです)。

前述のように、音楽家が提出してくる請求書は本当に不備が多いのですが、計算がややこしくて間違いやすいのもまた事実です。

こういったオンラインで利用可能な請求書作成サービスは、一度住所や振込先などの基本情報を入力しておけば繰り返し使えますし、日付、(ギャラの)単価、外税か内税かの設定などを間違えなければ、小計、消費税額、源泉所得税額、諸々差し引いた請求額まで全て自動計算で記入してくれます。

PDFデータで保存が出来、クラウド上にも残るので、電子帳簿保存法にも対応していますし、(アカウントさえ消去しなければ)紛失の心配もありません。

正直、音楽側にとっても事務所側にとってもメリットしかないので、絶対に利用していただきたいと個人的には思います(PDFになっている時点で事務所側はスキャンしてデータ化する必要もないし、「misoca」などで自動計算されている事が分かれば、振込額が合っているかの確認作業も不要で、こちらは非常に助かります)。

もう一点、細かい話になりますが、請求書のファイルを添付する際、ファイル名が自動生成された不特定多数の英数字の羅列ではなく、きちんと「2024年1月分講師料請求書_藤井裕樹」のように名前の変更(リネーム)がされていると親切です。

英数字の羅列だと、先方(事務所側)で保存する際や、その音楽家から請求書が提出されたかなどを確認する際に見付けにくいため、必ずリネーム作業を行っています。この作業が出来ているほうが相手の手間が減り、印象が良くなります。

会計ソフトの導入もアリ?

ある程度の年収があり、請求書や領収書の管理、クレジットカードで買った物やモバイルSuicaで支払った交通費なども「経費として」しっかり管理したい方は、「クラウドの会計ソフト」を導入しても良いかもしれません。

確定申告も楽に、正確になると思います。

ちなみにうちの会社は「freee」という会計ソフトを使用していて(個人事業主の時から使用しています)、この記事のサンプルとして作成した請求書も、「freee」に含まれた機能で作成しました。

僕の周りでは、この「freee」か、「マネーフォワード」を利用している方が多い印象です。

まとめ

冒頭でもお伝えしましたが、この記事は、ただ単に「請求書の書き方のHow To」ではなく、「なぜ職業音楽家は請求書を書けるようになっておいたほうが良いか」という視点でまとめてみました

紹介したように、請求書を作成する事自体は、オンライン、クラウドのサービスでとても簡単になっていて、それほど難しい作業ではありません(そのため、今回の記事では税額の計算式などは省略しました)。

それ以上に、

『職業音楽家として、税制を最低限理解し、(事務所などに)お金に弱い印象を持たれず、ナメられないようにする(ギャラの交渉も出来るようにする)』

『自分だけでなく、先方の経理事務、マネージメントの手間を省き、お互い気持ち良く仕事をする』

この二点が大切だと僕は考えています。

ぜひ、キャリアアップにこの記事を役立ててください!

株式会社マウントフジミュージック
代表取締役 藤井裕樹

MtFujiMusic School レッスンのご案内
MtFujiMusic School レッスンのご案内
Check!!

ビッグバンドのための
基礎練習テキスト

Basic Training for BIG BAND/Trombone/トロンボーン(楽譜&伴奏音源セット/PDF&MP3)

初心者用の楽曲でよく使われる3つの調(実音のBb,Eb,F)に限定し、スケールやブルースを使用しながら楽しく上達出来ます。

デモ音源は現役ジャズミュージシャンによるレコーディングで、アドリブソロのサンプル付き!

PROFILE
フジイ ヒロキ
フジイヒロキ/藤井 裕樹

株式会社マウントフジミュージック代表取締役
Trombonist, Composer, Arranger,
Teacher, Writer, Producer, Consultant

詳しいプロフィールはコチラ

Contact

お問い合わせ

Mt. Fuji Musicへのお問い合わせはお問い合わせフォームよりお気軽にご連絡ください。