5月25日に、全国の緊急事態宣言が解除になりましたね。
医療崩壊の危機を脱し、居酒屋のお酒の提供時間が延長されるなど、経済活動の再開に向けて良い兆しがある一方、音楽、エンタメ業界では「3密」の回避が難しく、今後も苦難を強いられる可能性が高いと考えられます。
持続化給付金に関しても、当初は「雑所得」が認められず、補償の対象にならないという話がありましたが、多くのフリーランスが声を上げた事で、きちんと収入と見なされ、最大100万円が受け取れるようになりました。
とは言え「フリーランスは社会的には随分低く見られているんだな」と、これまで以上に実感した人も多いのではないでしょうか。
今後、コロナの収束後に仕事を軌道に乗せるためにも、改めて「フリーランスとは何か」を考えておいたほうが良さそうです。
音楽家がなぜフリーランスになるのか?
先日ワイドショーに、コロナの影響で仕事がなくなった20代のクラシックの管楽器奏者が出ていました。
「先月まで月に○本くらいあった仕事がゼロになりました」というような最近よく聞く話のほかに、一般人(取材するテレビ局側)とは恐ろしいもので「そもそもなんでフリーランスになったんですか?」という質問をしていました。それに対してこの奏者の回答は、
「オーケストラのような団体に所属したいんですけど、入れないのでフリーランスをやっています」というもの。
音大卒の管弦打楽器奏者の中には一定数「オケに入る事」をステータスのように考えている人がいるように思います。ところが、定年、定員の問題でほとんど空きがないので、実際に入団出来るのは、運と実力を兼ね備えたほんの一握りです。
(今回のコロナ騒動でオーケストラの存続が危うく、オケを安定の職場と位置付ける事自体も常識が変化する可能性が出てきています)
ジャズ奏者の場合は音大だけでなく、一般大卒も多いのですが、そもそもオーケストラのような団体、定職が存在しないので、クラシック奏者のように「所属したいけど、出来ない」という理由の人はほとんどいないと思います。ただ、あまり深く考えず「好きだから、ほかの事をするより楽しいから仕事にする」という程度でミュージシャンになる人は多いかもしれません。
両者に共通して言える事は、卒業後、不安定なフリーランスになる可能性が極めて高いのに、そのための知識や覚悟がないまま、結果的に(消去法のように)フリーランスになっている人が多いという事ですね。
つまり、正社員とフリーランスの違いをよく考えて、職業を選択するという能動的な行動が出来ていない可能性があります。
正直なところ、大学にも行かず19歳でプロになった僕は、当時そこまで深く考えていなかったですね。
「サラリーマンは自分に向かない、やりたくない、好きなトロンボーンで仕事がしたい」
これだけでした。ただ、元々サラリーマン家庭で、さほど裕福な家ではなかったので、お金への意識は周囲の同世代の音楽家よりは高かったように思いますが(この件はまた別の機会に書きます)。
フリーランスと個人事業主の違いは?
実はこの2つのワード、正直あまり違いを認識していませんでした。フリーランスを日本語に訳したのが個人事業主だと思っていたのですが、ものすごくざっくり説明すると、「開業届を出したかどうか」という、税務上、法律上の区分だそうです。
今回の持続化給付金の件でも、初期の準備段階では「開業届がないと補償されないのでは?」と噂されていました。結果、確定申告さえしていれば対象になりましたが…
前回の記事では、「アーティストと職業音楽家」の違いについて僕なりに意見を述べさせていただいています。
「フリーランスと個人事業主」もこれにリンクしていて、要は「職業、事業としての自覚をもつ事」が最大のポイントではないかと思います。
先日、僕がディレクターを務めるNPO法人ネクストステージ・プランニングで「確定申告セミナー」を開催してくださった税理士の栗原邦夫先生がおっしゃっていた事。
「開業届を出さなくても音楽の仕事は出来るけど、出す事が『音楽で生計を立てるんだ!』という一種の覚悟のようなものになるんじゃないですか」
まったくもって同感です。
自分は「アーティストです」「フリーランスです」などというカタカナの肩書を使うと、なんとなくカッコイイですよね。
お客さんやファンの前ではそれで良いと思いますが(お金の匂いをプンプンさせる必要はないのですが)、自分の中では虎視淡々と「職業音楽家」「個人事業主」という意識をもっておく事が大切ではないかと思います。
「税務上」「法律上」という言葉はなんだか難しく、感性を武器にしている音楽家からすると避けて通りたい部分かもしれません。
このような緊急事態になり、どういう区分の人が補償の対象になるかが鮮明になってきていますが、これはそのまま「どのような人が国から社会人と見なされているか」だと言えますよね。
つまり、事業の開業届を出していない人、納税をしていない人(額の少ない人)、確定申告をしていない人は、国から社会人として認められていないとも考えられます。
「差別だ」「弱者に厳しい」と思う人もいるかもしれません。でも、税金がなければ国は成り立たない、ましてや補償の資金源が国にない事になるので、当然と言えば当然です。
誤解を恐れずに言えば「自分の好きな事だけをやって稼いでいないアーティスト、フリーランスは(税務上、法律上は)国、国民の役に立っていない」という事だと思います(一部のファンにとって有益なだけです)。
もちろん、それが悪いとか、人として、音楽家として優秀かそうでないかの論点ではなく「覚悟してやっていますか?」という話です。
僕の周りで成功しているフリーランスは、事業主としての誇り、自己責任という覚悟が感じられます。必要な知識も身に付けています。
それに対し、今回のコロナ騒動で、早々からフリーランスの補償について不平不満を発信していたアーティストたち(役者、芸能関係者も含め)は、それらが欠けていたように思います。世間一般の人から大バッシングがくるのはある意味当たり前ではないでしょうか。
これからも困難が予想される中で大切な事。とてもシンプルですが、
「職業音楽家」「個人事業主」として、税務上、法律上、社会に認められる存在になる事
これに尽きると考えています。