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2022
02.27

フィンランドからの音楽便りVol.11「複業・副業のススメ、副科のススメ」

音楽家の複業・副業?

音楽家の「副業」や「複業」と聞いて、皆さんはどんな事を思い浮かべますか?

真っ先に思い浮かぶのは、教える仕事でしょうか。演奏の仕事と教える仕事、これは音楽業界では切っても切れない関係にあるかもしれません。演奏しかしない人、演奏活動はせずに教える事に専念している人はたくさんいると思いますが、全くどちらかしか経験した事がないという人はあまりいないと思います。

日本では、「音楽を志すならば音楽一本でやるのが理想」という考え方がまだ強いかもしれませんが、私は、音楽関係の仕事だけで自立できるようになった後も、全く別の仕事をいくつか経験しました。その中で一番変わっているのは、前にもご紹介したキャビンクルー(客室乗務員)という職でしょうか。

Vol.7「音楽家と客室乗務員の意外な共通点?!」

冒険心、旅好き、昔から興味があった、というのが応募動機でしたが、正直なところ、それまで働いていた職場で変化が起きていて、逃げ場が欲しかった事も背景にあったのだと思います。年齢にかかわらず新人を採用してくれた某航空会社、家族や友人の協力があったうえで、クルーの仕事が出来、それまでとは違った世界を見せてもらえました。

音楽関係の仕事量を少し減らし、飛行機の仕事もフルタイムの半分くらいでやっていましたが、それでも忙しくなり過ぎて、自宅で寝られるのが月に数回という事も。下の子がまだ2−3歳の頃の話です。さすがにスケジュール管理が大変で、家族と過ごす時間を増やしたかったので、1年半ほどで辞めてしまいましたが、フィンランド語風に表現すると「心の一部」がまだこの飛行機の仕事に残っています、、。

私ほど極端でなくても、こちらでは、結構有名なプロの音楽家で、複業をしている人もいます。ポケットマネー程度から、しっかり収入がある人までさまざまでしょうが、中古車のディーラー、写真、パイロット、タクシーの運転手、ピラティスやヨガの講師、ビデオ作成や録音、編集、養蜂家など、実にさまざま。また、職業ではありませんが、不動産収入のある人もいます。

私の夫はトランペット奏者ですが、元々は工科大の学生で、21歳でフィンランド放送響に入ったものの、その後もエンジニア系の仕事を夏のバイトなどでしていました。夫の後輩で、日本でも指揮を振ったことのあるエーロ・レヘティマキは、指揮活動をしながらも工科大学大学院、シベリウス音楽院大学院両方を卒業した、しっかり者です。

日本で演奏と教え以外にも幅広く複業をしている音楽家友達は、マウントフジミュージック代表の藤井君以外にあまり思い浮かばないのですが(来月からはパートナーストレッチ店のオーナーとトレーナーも始めるそうです!)、国立音大のユーフォニアムの後輩で、今では売れっ子YouTuberとなった、コーヒーと音楽の伝道師、岩崎泰三君も、とても彼らしい面白い活動をしていると思います。

副科のススメ

私は日本で大学を卒業するまで、ユーフォニアム一本でした。と言っても、日本の音大では副科のピアノは必修ですし、小さい頃からピアノをやっていましたが、、、。

シベリウス音楽院では副科を選べたので、トロンボーンを選択しました。ピアノは多少は弾ける人も多いと思いますが、他の楽器も、興味さえあればどんどん挑戦しても良いのではないでしょうか?

「ユーフォニアムを続けたい」と、この道を志し始めたのは中学生の頃。当時指導に来てくれていた先生に、「ユーフォニアムに未来はない。お前は絶対トロンボーンに転向した方が良い!」と言われた事があります。その頃は、「私はユーフォニアムが良いんです!」「転向しません!」の一点張りでした(笑)。

ですが、フィンランドで付いた先生の影響もあり、副科で少しずつ吹き始め、自分の楽器を買ってから、本格的に練習するようになりました。22歳までの私は、「自分がトロンボーン奏者として仕事をする」なんて事は夢にも思ってもいなかったのです。今考えてみれば、この人口の少ないフィンランドで、純粋にユーフォニアム一本で食べていく事自体が、実際、かなり厳しかったのではないかと思いますが、、。周りに追い着くべく、トロンボーンもたくさん練習して、少しずつ仕事も出来るようになりました。単に経済的な事だけでなく、ユーフォだけでは出来なかった経験をたくさんさせてもらっていて、音楽的にも楽しいのです。

オーケストラやオペラ、ジャズのビックバンド、そしてトロンボーンカルテット。「自分はユーフォニアム奏者だから出来ない。手を出してはいけない」というリミットをかけていたら、経験出来なかった事です。

余談ですが、コロナ禍の規制、オーケストラの人数制限の影響もあり、最近任されたミュージカルのパート譜は、トロンボーンとユーフォの持ち替えを前提に書かれていました(この仕事は同僚と交代で乗っています)。

ジャズ、特にビッグバンドの世界では、サックス奏者がクラリネットやフルートを持ち替えて吹くのは割と当たり前の事です。マルチ・インストゥルメンタリストとまではいかずとも、別の楽器に挑戦するのも、音楽的な視野が広がって、楽しいかもしれません。

今や売れっ子の作・編曲家の高橋宏樹君は、実は同じ高校でクラスも部活も一緒だったのですが、彼も本業の楽譜を書く仕事だけではなく、キーボードなどで演奏活動、最近では面白いビデオも作っています。

藤井君の著書「音大生のための“働き方”のエチュード」を先月読ませてもらったのですが、私が実際体験してきた事や、思っている事がたくさん書かれていて、とても共感しました。

今の時代、オーケストラや会社に雇用されていても、そこが経営難になる事もあります。そんな時にも選択肢が残るよう、ほかの能力を身に付けておいたり、複業をするなど、形に捕われずに多面的な働き方をするのもアリかもしれませんね!

※「日本とフィンランドの間にある大国ロシアによる、ウクライナへの攻撃が始まった事に大変ショックを受け、今回は連載タイトルの一部である「幸せの国」は使用を控えさせていただきました。平和な日々がウクライナに早く戻ってきますように…(児島瑞穂)

☆この連載を読んでくださっている方へのプレゼント。私たちのCD ユーフォリア・ブラス・セクステット「Kun」(定価2,500円) と、私の高校時代からの友人で、マウントフジミュージックの代表、藤井君のリーダーアルバム「Lullaby of Angels」(定価2,500円)を2枚組3,500円(税込3,850円/送料無料)で販売いたします。ぜひこの機会にお求めください!

フィンランドの金管アンサンブル、ユーフォリア・ブラス・セクステットのファーストアルバム、「Kun 〜時(とき)」。ヘルシンキ市立劇場の女優、歌手であるエミリア・ニューマンをソリストに迎え、1950〜1960年代にフィンランドで流行った歌を中心に収録。斬新な編曲で好評を博す。

ヴィサ・ハーララ(トランペット・キュミ・シンフォニエッタ首席)
元フィンランド放送交響楽団トランペット副首席。ブラジル音楽を心の拠り所にしている、マルチインストゥルメンタリスト。

ミーッカ・サーリネン(トランペット・フィンランド放送交響楽団副首席)
元々、スタジオミュージシャンとして、ポップス系や、ロックバンドでも働いていたが、放送響入団後はバロックに目覚め、現在はフィンランドバロックオーケストラ団員、シベリウス音楽院講師を兼任。

ユッシ・ヤルヴェンパー(ホルン・ユヴァスキュラ・シンフォニア首席)
元フィンランド国立オペラ劇場オーケストラ、副首席契約団員。自身の出身地である地方都市にて、音楽祭を定期的に主催している。

アンナ マイヤ・ライホ イヘクウェアズ(トロンボーン・トゥルクフィルハーモニー副首席)

元フィンランド護衛隊音楽隊副首席。トゥルク・ジャズオーケストラの設立メンバーでもあり、ジャンルを超えたクロスオーバーを得意とするトロンボーン奏者。

児島瑞穂(ユーフォニアム・北ヘルシンキ音楽学校)
東京都調布市出身。国立音楽大学、フィンランド国立シベリウス音楽院卒業。フリーランス音楽家。トロンボーン奏者としても、オーケストラの契約団員やエキストラとして活動。

アレクシ・サラスカリ(テューバ・北部キュミ音楽学校)
キュミ・ブラスイベント芸術監督。吹奏楽指導者、指揮者としての評価も高く、フィンランドの吹奏楽指揮者オブザイヤーを2020年に受賞。

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