皆さん、こんにちは!
株式会社マウントフジミュージック代表取締役の藤井裕樹です。
サボりにサボって、半年ぶりのブログ更新となりました…(^^;)
今年はまさに「コロナに始まってコロナで終わる」年になってしまいましたね。
緊急事態宣言や個々の活動自粛といった努力もむなしく、感染の第三波が訪れ、このまま年を越してしまいそうです。
来年こそは収束し、平穏な日常や、エンタメ界に活気が戻ってくる事を切に願っています。
さて、この半年ほど何をしていたかと言うと、個人的には結構充実した日々を過ごしていました。
フリーランス音楽家(ジャズ・クラシック)の経営研究室 – Vol.1
コロナ禍でコントロール出来る事、出来ない事/フリーランス音楽家(ジャズ・クラシック)の経営研究室 Vol.2
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このブログにも書かせていただいたのですが、「起きた事をポジティブ」にとらえ、「今、出来る事」「今しか出来ない事」、「自分でコントロール出来る事」にフォーカスすると、このような状況下でもやれる事はたくさんあります。
特に今年は、国からの給付金や助成金、補助金がとても充実していました。
中でも、文化庁の継続支援事業の補助金は500億円規模の予算で、当社でも申請させていただき、2ヶ月を要しましたが、無事採択され、100万円近い補助金が認められました。この後紹介する機材も、この補助金を利用させていただいたものもあります(給付金などに関しては、また別のブログでレポートします)。
親子で作ろう!デジタル動画絵本
音楽ディレクターを務めるNPO法人ネクストステージ・プランニングでは、「コロナ禍でも出来る事を!」という事で、スタッフ達と『親子で作ろう!デジタル動画絵本』という企画を考えました!
企画の詳細はホームページを読んでいただきたいのですが、「本番が出来ない若手奏者に少しでも演奏の機会を」という意図がありました。完成した動画では、「たとえBGMであっても、上質なクラシックの生演奏を子どものころから聴いてほしい」という教育的観点もあります。
収録には、東京中央区京橋にある老舗の「明治屋」さんが「ぜひ若い音楽家のために協力させてください!」との事で、自社の素敵なホールを使わせてくださいました。改めまして「明治屋」さん、ありがとうございます!
このブログでは、収録当日、僕が持ち込んだ機材によって、音や映像がどう変わるのかを解説してみたいと思います。
今後、デジタルコンテンツでの発信はとても重要になってくると思いますので、少しはお役に立てるかもしれません!
最初にお断りしておきたいのは、僕が解説するのは「ユーチューバー的な動画の見せ方」ではなく、あくまで「クラシックやジャズの生演奏の素材で、限られた機材や予算、環境でより良く見せるポイント」や、「機材のクオリティーやチョイスによって、本来の実力以下に見えないようにするポイント」です。
そのため、あえてロゴや字幕を入れたり、動画内に別の動画や楽譜を挿入するなどは一切していません。Macを買ったら初めから付いている「iMovie」しか編集に使っていないレベルなので、すぐにでも実践出来ると思います!(スマホの操作のほうが得意な方はiPhoneでも「iMovie」が使えます)
今回は、ネクストステージ・ストリングカルテットの皆さんによる、葉加瀬太郎さん作曲の「情熱大陸」で検証してみようと思います(比べやすいようにショートバージョンで演奏していただきました)。
※比較しているのは「同じテイク」です。
※会場はコンサートホールやレコーディングスタジオではなく、都心で地上にあるイベントホールのため、周囲のノイズは多少入ってしまっています。ご了承ください。
収録メンバー:ヴァイオリン:郡司菜月、ヴァイオリン:廣田真理衣、ヴィオラ:本田梨紗、チェロ:覚本あかり
デジカメ映像と本格的なマイク、オーディオインターフェースを使用!(完成品)
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まずはこれを聴いてみてください!
いかがですか?なかなか良いですよね!
もちろん僕は現場で生の演奏を聴いているわけですが、ネクストステージ・ストリングカルテットのクオリティーをきちんと伝えられている動画だと思います。使用した機材は、
Canon EOS m100(ミラーレス一眼レフカメラ)
ミラーレス一眼レフカメラは、普通の一眼レフと比べても安くてコンパクトなので、デジカメ初心者や、常に楽器の持ち運びがある音楽家にはオススメです。最近はスマホでも(特にiPhoneは)かなり綺麗に撮れますが、やはりそれ以上のクオリティーになりますね。ちなみにこのブログの写真もこのカメラで撮影しています。
AKG C414 XLⅡ(コンデンサーマイク)
AKG C414 XLS(コンデンサーマイク)
AKB48みたいな名前ですが(笑)、ドイツ語で「アーカーゲー」と読むのが日本でも一般的。
音楽の都、オーストリアのウィーンのメーカーだからというわけではないかもですが、納得の音ですね!
C414は、レコーディングスタジオでも常備されているプロ仕様で、若干高価です。
ちなみに、リハーサルスタジオなどでよく見かけるSHURE57や58は、コンデンサーではなく「ダイナミックマイク」という種類になります。
ざっくり説明すると、コンデンサーマイクは繊細に収録出来、レコーディング向きで高価。ダイナミックマイクはコンデンサーほど繊細には収録出来ず、ライブ向き(丈夫)で安価です。歌モノポップスのブラスセクションなどで、電子楽器や打ち込みに混ぜてしまう場合は、正直ダイナミックマイクでレコーディングしてもわからないですが、クラシックの生演奏ではかなり差が出ると思います(別の機会に検証します)。
UNIVERSAL AUDIO apollo x4(オーディオインターフェース)
オーディオインタフェースというのは、マイクなどから拾ったデジタル信号をパソコンに送る機械で、宅録を始める際には必須アイテムです(最近はUSB接続で、オーディオインターフェースを接続しないで良いマイクもあるようですが)。良い音質でレコーディングするためにはマイク同様、重要度が高いアイテムではないでしょうか。
安いものは1万円以下からありますが、こちらは友人のレコーディングエンジニアさんに薦めてもらったもので、20万円くらいします(持続化給付金のおかげで買う事が出来ました!)
これに加えて30万円ほどのMac Book Proを持ち込んでいるので、使用機材の総額は70万円くらいになりますね。
プロでも、コンサートやライブメインで活動している演奏家では、なかなかここまでの投資は出来ないし、必要もないかもしれません。
収録後の作業としては、映像素材と音素材が別なので、後で合成する必要があります。
前述の通り、無料のiMovieなどを使用し、慣れれば簡単に出来ますが、レコーディング自体はAppleのLogic Proというものを使用していて、このソフトの操作は少し勉強が必要だと思います(今回の音も、クラシックなのであまりいじってはいませんが、リバーブなど、多少手は加えています)。
Logic Proは、Mac付属のGarage Bandのアップグレード、有料版のようなもの。まずはGarage Bandを使ってみて、少し物足りなくなったらLogic Proに移行するのもありですね。現時点で24,000円ですが、十分にその価値はあると思います。
ここまでのところをまとめると、「きちんとしたカメラやマイクで収録して、後で編集すればクオリティーは高い」という事ですね。「それなりにお金をかければ、それなりのクオリティーになる」という、まあ当たり前の話です。
問題は、個人ではなかなかここまでの設備投資は難しいという点。そんなわけで、以下、デジカメだけだったらどうなるか、一体型のポータブルレコーダーだとどうなるのかを見ていきましょう!
デジカメのみを使用
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こちら、いかがですか?
同じくCanon EOS m100を使用していますが、音がこのカメラで録れたままです。
アマチュアの方でも、この音が良くないのはわかるのでは?
ただ音が大きいだけで、高音がキンキンしたり、音楽が盛り上がっているところで急に音が薄っぺらくなっていますね(演奏している人たちは上手ですよ!) 。
こちらはiMovieでの編集画面ですが、オーディオの波形を見ると、音量が大きすぎてピークを超えてしまっています(超えたところが黄色になっています)。今回は弦楽四重奏なのでまだなんとか聴く事が出来ますが、もっと音の大きい管楽器やドラムではこれ以上に酷い状態になります。
どんなに映像が綺麗でも、音楽家にとってまず大切なのは「音」ですよね!
デジカメの音はそのままは使えないと思ったほうが良いです。スマホでも、外付けマイクを使わないと、機種によってはこんな感じになってしまう可能性があるので、YouTubeもそうですが、Instagramなど、スマホだけで動画配信、ライブ配信をやっている人は気を付けてください。自分の演奏をかなり劣化させて聴かせているリスクがあります。
ポータブルレコーダーを使用(その1)
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こちらはZOOMのQ2nというポータブルレコーダーで収録しました(コロナ禍で有名になったZoomとは別の会社です)。
以前は5万円近くしたようなんですけど、おそらく生産終了のため、某楽器店の「展示品限り」で15,000円くらいになっていたので、試しに買ってみました。
手のひらサイズなので、持ち運びに便利です。
操作も簡単で、簡単に画角や画像の種類を選ぶ事が出来ます(コンサートホール、ジャズクラブなどのモードがあります)。
前述のデジカメと違い、収録時の音量調整も出来るので、波形を見ても、ピークを超えてしまっていないのがわかりますね。一度ピークを超えてしまった音は、後から編集で下げても割れた音などは元に戻らないので、どちらかと言えば音量レベルは小さめに録っておいたほうが無難です。後から編集するのが面倒な人は、ピークを超えないようにして、8割〜9割くらいのところで録ると良いので、コンサートの時などは、リハーサルで「一番フォルテになるところ」を演奏してもらってレベル調整をしておくと良いでしょう。
音は結構綺麗に録れていると思います。
「奏者の実力以下」にはなっていなくて、良くも悪くも「正直でそのまま」という印象。
難点はやはり、映像のクオリティーが低いという点ですね。操作画面のディスプレイも小さくて見にくいので、実際どのように撮れているかが現場でわかりにくいという欠点もあります。
こちらの動画はかなり暗かったので、iMovieで少しいじってみました。とは言え限界があり、どう頑張っても一眼レフには敵わないですね。ちなみに、このレコーダーが生産終了になっているのは、ハイレゾで4K画質のものが出たからだと思います。画質がかなり改善している可能性があるので、これから購入を考えている人は新しい機種がオススメです。
ポータブルレコーダーを使用(その2)
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こちらはSonyのHDR-HV1というポータブルレコーダー。
ZOOM Q2n同様に、ポータブルのレコーダーとしてはなかなか優秀で、結構綺麗な音で録れていると思います。
収録音量のレベル調整も出来るので、事前にきちんと設定しておけばピークを超える事はありません。余計なモードが付いていないので、ZOOM Q2n以上に「正直でそのまま」と言えるかもしれませんね。
このカメラの特長は、画角の調整(ズームイン&アウト)が出来なくて、魚眼レンズのような設計のため、かなり広角で撮れます。動画を見ていただくとわかるように、ほぼ同じ位置に置いたCanonのEOSやZOOMと比べても、余計な部分までが映り込んでしまいます。
ですが、今回は比較のためにあえてこの位置で撮影しただけで、きちんと奏者の近くに置けば良いアングルで撮れます(もちろん、iMovieなどで後からトリミングも出来ます)。
もう1つの特長は、ディスプレイが横に付いている点。
かなり至近距離に置いてもステージ全体が映り、音も割れずに収録出来、奥行きがない場所でも(壁ギリギリに置いても)映像を確認出来るのがメリットで、逆に、ホールの後方などからしか撮影出来ない場合、客席や左右の壁まで、かなり広範囲が映ってしまうのと、自分の目の前に置いて撮影する場合、横から覗き込むようにしないと映像の確認が出来ないのがデメリットと言えるかもしれません。
映像のクオリティーは、そのままでもZOOM Q2nよりは良いですね。
広角になってしまうのが一長一短ではありますが、「コンパクトで、音質重視で、映像もそれなりに」というコンセプトで考えると、なかなか良い機種だと思います(残念ながら生産終了いるので、中古市場で探してみてください)。
ちなみにNPO法人ネクストステージ・プランニングでもイベントの記録にはこれを使用しています。
客席に機材を置けない企業さんのパーティーなどでもステージの至近距離で記録が出来、音もそれなりに録れるので、重宝しています(最初に紹介した「デジカメ+コンデンサーマイク+オーディオインターフェース」のような大がかりな設備は、クライアント様がいるパーティーや、日常の業務の記録には向きません)。
オーディションなどで気を付けたい事
特にオーディション動画などの場合、後からリバーブなどの編集を加えてしまうと、本人の正確な実力がわからないため、逆効果になる場合があります。
募集要項に「編集を加えていない音源を送ってください」と書かれている場合もありますが、個人的にはそう書かれていなくても、極力ナチュラル、フラットな状態で応募したほうが良いと思います(もちろんケースバイケースですが)。
機材によって実力を誇張するのも良くないし、音質の劣化で損をするのももったいないですよね。
・(YouTubeでも)ミュージックビデオ、プロモーションビデオのように、お金をかけて作り込みたいなら一番最初に紹介したような形までこだわる(必要に応じてロゴや字幕を入れたり、複数のカメラで撮影した映像を切り替える)
・そこまでするのが難しかったら、画質の良いiPhoneなどのスマホで撮影し、紹介したSonyやZOOMのポータブルレコーダーで録った音を合成する(多少リバーブなどの調整はする)
・オーディションで、映像もそれなりに必要なら、一眼レフのデジカメやiPhoneで撮った映像に、紹介したSonyやZOOMのポータブルレコーダーで録った音を合成する(音はいじらない)
・オーディションで、あまり映像のクオリティーを重視されないのであれば、音が良くてそこそこ画質の良いポータブルレコーダーの素材をそのまま提出する
など、さまざまな選択肢があると思います。ポイントは、
「何の目的の動画、音源なのか?」「誰に観てもらう、聴いてもらうための動画、音源なのか?」を考えて制作する事
だと思います。
コロナに関係なく、リモートワークやデジタル機器の進歩はこれからも続くと思います。逆に、クラシックやジャズのマーケットは、このまま策を講じなければ、減少していく可能性が高いと思います。
アナログで、一種の伝統音楽に携わっている人は、デジタルに乗り遅れている人が多い印象ですが、上手に活用すれば、コンサート、ライブ会場に足を運べない地域に住んでいる方、子育て中の方、高齢の方、障害のある方などにも音楽を届ける事が出来るかもしれません。YouTubeなどを観た海外の方からオファーが来る可能性もありますよね。
サービス業という「ビジネス」として考えた場合、社会に必要とされる商品を生み出していく事が必要不可欠だと思います。その結果、お金、利益は後からついてくるものだと僕は考えています。
クラシックやジャズの生演奏の温かみを、デジタル技術を上手に活用して広める
これが大切なのではないでしょうか。
ちなみに、当社の(僕の)プライベートスタジオでもレコーディングや撮影のサポートが出来ますので、ご自身では限界があるなと思われた方、ぜひご相談ください!
https://mtfujimusic.com/service/produce/sound/
NPO法人ネクストステージ・プランニングのブログに掲載した記事です。3年前に書いたので、若干情報が古いところもありますが、いま読んでも十分参考になると思います(3回に分けて書いています)。